コーヒー畑から始まった、長い長い旅路――。43歳にして世界1位に至ったロハン・ボパンナが明かす、幼少期、平和への願い、そして次世代への思い
「コーヒーショップの席に座っていると、今でも不思議に思うんです。どうやって私は、ここまで来られたのだろう……と」
鳶色の目で遠くを見つめ、彼は柔らかく言葉を紡ぐ。
それは“プルーストの香り”のように、コップから立ち上るアロマが、コーヒーに囲まれ育った幼少期の記憶や思い出を、呼び起こすからなのだろう。
もっとも彼が、子どもの頃に知るコーヒーは、飲み物ではない。
母国インド南部の、小さな村。褐色の果実を実らせる背よりも高い樹木が、延々と広がる緑の大地――。
今年45歳を迎えたテニスプレーヤー、ロハン・ボパンナは、その地から、“史上最年長ダブルス世界1位”への道を歩みはじめた。
自ら申し出て実現した、柚木武とのダブルス結成
現在、東京都で開催されているジャパン・オープンは、『ATP500』と呼ばれるツアーカテゴリー大会。日本の選手たちにとっては、大舞台を踏むまたとないチャンスでもある。
その大会で、ボパンナは日本の柚木武と組んで出場中。準決勝で第1シードを破る快進撃を見せ、ついに決勝まで到達した。
現在ダブルスランキング世界112位の柚木にとって、これがツアー大会初の決勝進出なのはおろか、白星を得たのも初。ボパンナとコートに立ち、その動きを、技を、呼吸を隣で感得しながら、試合中にも急速に成長中だ。

勝利後にオンコートインタビューに応じる柚木(中央)とボパンナ(右) 撮影:内田暁
このペアが実現したのも、ボパンナからの提案だったと、デビスカップ日本代表監督の添田豪が明かす。
「僕が世界に出始めたばかりの頃、ロハン(ボパンナ)はまだシングルスで戦っていた。アジア人選手が少ないなか、年齢が近かったこともあり、色々親切にしてくれた」と添田が回想する。
そのような縁もあり、ボパンナは今回のジャパン・オープン出場を考えた時、添田に「誰か日本人で、僕が組める選手はいるかな?」と申し出たという。「こんなビッグチャンスはない!」と思った添田監督は、まだパートナーが決まっていなかったこともあり、196㎝のサウスポー、潜在能力の塊のような柚木を推した。